加速器(accelerator)とは、電子や陽子のような粒子や、ヘリウムからウランに至るまでの様々な原子核を、電場の力を利用して高速に加速する装置です。
Belle Ⅱが実験を行うSuperKEKB加速器は一周約3キロメートル、地下約10メートルのドーナッツ状のトンネルの中に建設されます。そこに二つの真空パイプ(リング)を設置し、それぞれに70億電子ボルトのエネルギーの電子と40億電子ボルトのエネルギーの陽電子を蓄積します。その交差点(IR)で電子・陽電子を衝突させて素粒子物理の実験を行ないます。このような加速器を「衝突型加速器」と呼びます。
旧KEKB加速器は1999年から2010年まで稼働し、世界一の衝突頻度を記録しました。現在は高度化作業が行われており、2014年度にはKEKB加速器の40倍の性能を持つSuperKEKB加速器として生まれ変わります。
真空から発生し、他の粒子の質量の起源となると考えられるヒッグス粒子は電気的に中性ですが、超対称性理論など標準理論を超えた素粒子理論では中性ヒッグス粒子と対を成す荷電ヒッグス粒子が存在することが予言されています。標準理論では荷電ヒッグス粒子は存在しないので、この存在が確かめられれば新しい物理法則の動かぬ証拠となります。
素粒子の一種。標準理論では、アップ(u)、ダウン(d)、ストレンジ(s)、チャーム(c)、ボトム(b)、トップ(t)の6種類からなります。単体では存在できずに、中間子(メソン)やバリオンと呼ばれる複合粒子の形で存在します。
1973年に小林誠と益川敏英の両氏が提唱した、当時すでに実験的に発見されていたCP対称性の破れを説明するための理論。3世代(6種類)以上のクォークが存在すればCP対称性が破れることを示し、6種類のクォークを予言しました。当時は3種類のクォークしか知られていませんでしたが、予言どおり1974年にチャームクォーク、1977年にボトムクォーク、1995年にトップクォークが発見されました。さらに、Belle実験により、CP対称性の破れが、この理論で提唱された機構でおこっていることが証明されました。
物質を構成する最小の粒子。歴史的には陽子や中性子も素粒子と呼ばれていましたが、それらはさらに小さな粒子(クォーク)で構成されている複合粒子であることが解明され、厳密な意味での素粒子ではありません。現在の標準理論では、6種類のクォークと6種類のレプトンが素粒子であるとされています。
メソンとも呼ばれます。クォークと反クォークが結合してできた粒子。現在知られてる6種類のクォークとその反粒子の任意の組み合わせで作られます。歴史的には、湯川秀樹博士により原子核内の陽子と中性子を結合する粒子として導入され、原子核のサイズからその質量が予言されました。後に湯川博士の理論通りの質量をもつ粒子が発見され、予言は実験的に確認されました。現在では極めて多くの中間子が知られており、SuperKEKB加速器で大量に作りだされることになるB中間子も仲間です。
標準理論においては、電磁気力と弱い力が破れる高いエネルギースケールに対応するヒッグス粒子が予言されますが、これを単純な素粒子と考えると、その質量の大きさに別の観点から問題が生じます。超対称性理論はそれを解決するために提唱された新しい理論で、SUSY粒子(超対称性粒子)と呼ばれる大量の未発見の粒子の存在を要求します。標準理論を超える理論の中で最も有力なものであり、様々な実験で精力的に探索されています。
クォークによって構成される複合粒子の総称。6種類のクォークおよびそれらの反粒子、あるいはエネルギーの共鳴状態の組み合わせによって、非常に多くのハドロンが存在します。その大部分は天然には存在せず、主に加速器によって人工的に作り出されています。3個のクォークからなる陽子や中性子、2個のクォークからなるパイ中間子やK中間子などがあります。
「物質」を形成する様々な「粒子」に対して、質量などの性質は同じで、電荷の符号がまったく反対の粒子のことを「反粒子」と言う。例えば、陽電子は電子の反粒子です。こうした反粒子が集まってできたのが「反物質」であり、宇宙誕生直後には物質と同じ量だけ存在していたと考えられています。
標準理論では、あらゆる粒子の「本来の」質量はゼロでなければなりません。現実の粒子の多くが質量を持つことを説明するため、真空中は「ヒッグス場」によって満たされていると考え、ヒッグス場と相互作用する粒子は真空中を進む際に抵抗を受けるため、質量を持つとされます。これをヒッグス機構とよびますが、この機構ではヒッグス粒子とよばれる素粒子が予言されます。ヒッグス粒子は現在の標準理論で登場する粒子の中で、唯一未発見の粒子です。
加速器で加速された電子や陽子を標的にあてて発生させた中間子、中性子、ニュートリノなどの粒子、あるいは電子の軌道が磁場の中で曲げられる時に発生する放射光を実験装置まで導く真空のパイプをビームラインと言います。実験装置の種類に応じて様々な構成のビームラインが存在します。
標準理論(標準模型)とも呼ばれます。素粒子の振る舞いを記述する、素粒子物理学の基本理論で、電弱統一理論、量子色力学、小林益川理論などを含んでいます。標準理論は現在知られている素粒子に関する実験事実をよく説明していますが、理論的には不完全な点が指摘されています。非常に高いエネルギー状態では、これを超えた新しい物理法則が存在すると考えられ、現在の標準理論はこの新しい理論の低エネルギー状態を表すものと推測されています。
電子と同じ性質ながら正の電荷を持つ素粒子で、電子の反粒子です。1932年にアンダーソンにより宇宙線の中から発見されました。SuperKEKB加速器では加速した電子と陽電子を衝突させることにより、大量のB中間子を生成させます。
素粒子の一種。電荷をもつ電子、μ(ミュー)粒子、τ(タウ)粒子と、電荷をもたない3種類のニュートリノからなります。クォークと異なり、レプトンは単体でも存在することができます。中でも電子は原子を構成する粒子の一つで、電流の担い手としてもなじみ深いものです。
5番目に重いクォークであるbクォークを含む中間子。KEKB加速器を用いたBelle実験でB中間子におけるCP対称性の破れの発見されたことにより、小林益川理論が正しいことが証明されました。SuperKEKB加速器でも大量のB中間子が作り出される予定です。
15の国と地域、60研究機関から約400人の研究者が参加する国際研究チーム。KEKB加速器により生成されたB 中間子と反B 中間子対での粒子崩壊過程をBelle測定器で詳しく調べることにより物質と反物質の僅かな性質の違いを究明してきました。2001年には、B中間子と反B中間子の対称性の破れを発見し、2008年の小林・益川両氏のノーベル物理学賞受賞に貢献しました。SuperKEKBに向けた加速器と測定器の高度化のため、2010年6月にデータ収集を終了。現在は、蓄積されたデータを使っての物理解析を継続しています。
CPとは「C(荷電変換)」と「P(パリティ変換)」を合わせたもののことで、粒子の電荷などを逆にした上で鏡に移した像のように反転させる変換のことで、粒子を反粒子に変換します。CP対称性とは、粒子と反粒子のふるまいが同じであることを言います。しかし実際には粒子と反粒子のふるまいは異なっており、CP対称性は破れています。小林・益川両博士は、クォークが3世代6種類あればCP対称性が 破れることを説明できるとし、2001年KEKBファクトリーがこのCP対称性の破れを実証したことで、両博士の2008年ノーベル物理学賞受賞に繋がりました。CP対称性の破れは、今の宇宙でなぜ反物質が消えてしまい、物質優勢の世界が形づくられたのかという謎を解く鍵の一つと考えられています。